物語と物語のあいだに、一冊の本が生まれるまでの、小さな時間があります。
今回は、以前ご紹介した掌編「読めない線」から。作品を書いたあと、原稿を整え、紙に触れ、表紙をつくり、奥付をつくる。そんな制作の途中を、ほんの少しだけお見せします。次の作品へ移る前の、一頁として。
✒️ 綴書房通信 No.03

記録から、一冊へ
「読めない線」は、「空き家をめぐる記録」のある場面から生まれた、初めての掌編小説です。
起こったことの記録があって、そこから文章が生まれ、その文章を原稿用紙に移し、ガラスペンで自筆する。そうして、少しずつ一冊の本になっていきました。原稿用紙も、線を引いてデザインした、オリジナルのものです。
同じ出来事が、公募に応募したときのままの手書き原稿、それを整えた文章、そして掌編小説と、三つの姿で並んでいます。記録から文章へ、文章から一冊へ。そのあいだにあった時間を、今回は少しだけ辿ってみます。
一冊の最後に置くもの
本の最後には、「奥付(おくづけ)」があります。タイトルや著者名、発行日など、一冊の本がどこから生まれたものなのかを残す、小さな頁です。「読めない線」では、その奥付にも、少しだけ手を加えました。
奥付は、最初からひとつに決まっていたわけではなくて
奥付は、最初からひとつの形に決まっていたわけではありません。いくつかの形を並べてみて、文字の大きさや余白、本文との距離を見ながら、少しずつ整えていきました。どれにしようかと考える時間も、本をつくる楽しみのひとつでした。
物語に書かれなかった時間
一冊の本にも、物語には書かれなかった時間があります。
表紙をつくり、紙を選び、文字の位置を、何度も動かしたこと。最後に置く頁まで整える。ほんの小さな部分や掛けたですが、こういうところにも「本らしさ」が宿る気がします。
「読めない線」は、はじめから完成された一冊として始まったわけではありません。「空き家をめぐる記録」のあるエピソードから生まれた文章に、新しく書き加えたものを重ね、自分でデザインした原稿用紙に、ガラスペンで一文字ずつ綴りました。

ガラスペンで、一文字ずつ
ガラスペンの、一文字にかかる時間。いつもより、大きな一マス。
はじめは、そのどちらにも少し戸惑いました。いつものペンの速さのまま書いてしまっていました。久しぶりのガラスペンだったこともあって、スキャンしてみると、線が薄くて見えにくい。
「あれ?」
と、少し急いでいた自分に気づきました。けれど、ゆっくりと文字を綴るうちに、インクに濃淡が生まれてきました。一文字を書く時間も、一マスに文字を置く時間も。そうしてかけた時間もまた、一冊をつくっているのだと思います。

原稿用紙は、線を引いてデザインしたオリジナルのものです。
真っ白な紙ではなく、インクの色に合わせた原稿用紙を制作。書籍と偶然重なった色合いも、お楽しみください。
最終的に、どの奥付を選んだのか。
本を手に取ったときに、そっと見つけてもらえたらと思います。
「読めない線」を、手に取るには
この掌編「読めない線」は、BOOTHで販売しています。手書き原稿から生まれた一冊で、表紙と裏表紙にも、ささやかな仕掛けをしのばせました。よければ、実物のほうも見てみてください。
そして「読めない線」には、この本だけの書き下ろしを一篇、そっと加えました。「言わなかった名前」といいます。あの家をめぐって、実は、言えなかった言葉が、もうひとつありました。それは、本のなかにだけ。
奥付って、なに?──くわしくはこちら
「奥付」に何を書くのか、その項目や書き方は、別の記事にくわしくまとめています。この頁で少し気になった方は、のぞいてみてください。
一冊になるまで

琇夏|手紙と鍵の綴書房
一頁ずつ、綴っています。
▷ BOOTH https://tsuzurisho.booth.pm/
▷kindle 電子書籍
編集後記
本をつくる時間を振り返っていると、一冊が終わることは、何かが終わることではないのだな、と思います。一冊ができれば、また次の頁が生まれる。
今回の綴書房通信は、その頁と頁のあいだに、そっと置いておく小さな記録です。
次の物語へ移る前に、この一冊が生まれた小さな時間を、そっとここに残しておきます。
この記録のあとに続く新しい章と、開く扉を、どうぞ楽しみにお待ちください。
そのときは、またこの場所で、お知らせできたらうれしいです。

✉️ 結び
本日も綴書房通信をお読みいただき、ありがとうございました。また次の便りで、お会いしましょう。




コメント