【空き家をめぐる記録 #21】Episode7|複数人の気配

03-空き家をめぐる記録

いるいる

なんと振り込む相手先が誤って、二重に入金されていた。

通帳には見たこともない夢のような数字が並んでいた。実際、夢のように消えてしまうのだけれど。

年が明けるまで先方から連絡はなく、こちらからも入れなかった。年が明け、自宅まで二人の方が訪れた。父は仕事で不在だったので、勝手に話し合うのも気が乗らなかった。

玄関の横の部屋にいると外の様子がわかる。「いるいる」という声が聞こえた。夜逃げでもしたと思ったのか、自宅の電気メーターを確認している様子に腹が立った。その後、父が先方に連絡をして仕事の現場まで来てもらい、話し合いをして無事解決した。

ようやく保証金が確保でき、購入できる準備が整った。けれどもその保証金を、父は古くなっていた車の購入に充てた。空き家購入までひたすら出金しないようにと思っていたけれど、その都度の生活費を削り、母の年金からも追加しながら、なんとか持ちこたえてきた日々だった。

借家暮らしになってからも近所で空き家を見かけることがあったけれど、どうにもできずただ見ているだけだった。不動産屋さんに出ている物件はどれもそれなりの値段で、購入にはほど遠かった。

一般市場では買えそうもないため、主に競売情報を見るようにした。この頃はまだよくわからず、とりあえず金額と父の仕事道具を置くための大きさで選ぶことにしていた。

代位者

ある時、飛び跳ねたくなるような良さそうな物件を見つけた。けれども惜しくも入札期間が終了したあとだった。

どうしても内容が知りたくて、有料で資料を取り寄せられるサイトを見つけて初めて取り寄せてみた。同時に登記も調べた。

相続放棄された管財人付きの競売物件で、場所は慎人が間借りしている隣街の地域だった。父も兄も仕事はその地域が主で、立地条件も日当たりも間取りも今まで見た中で最高だと思った。

隣の敷地には大きな作業場があり、渡り廊下で繋がっていた。その事業の荷物が広縁にびっしり積まれており、浴室は著しく荒れていた。

ペットボトルやカップ麺が山積しているような散乱した感じではなく、時が止まったような、苦しい生活を過ごされていたような風景だった。

古い物件にきれいなものはないのでそれほど気にならなかった。魅力的だったのは石造りの門と裏門まで付いていたことだった。門から少し斜めに見え隠れする玄関が素敵だった。玄関を上がると応接間があり、広縁から眺められる庭も広く、手入れさえすれば立派で豪華な敷地になると母と舞い上がる気持ちになっていた。

空き家でも親戚が近くに住んでいることが多く、気を遣うやり取りが結構あったから、前所有者が相続放棄しているという気の要らない自由さが何よりだった。

登記に初めて見る「代位者」という文字が目に留まった。

相続人不在、代位者は市、債権者が市役所となっていたので、父と母が市役所へ出向いた。書類を見て慌ただしく数人が奥で調べている様子で、だいぶ待たされた。結局「次回まで待つように」と言われ帰宅した。次回はかなり先になるという。

複数人の気配

このころはまだ競売物件のことを詳しく知らず、怖いもの知らずの行動を取っていた。

家がない、失うものが何もない状態だったから、怖いというより「安い」と条件に合う物件を見つけると期待に心が躍った。

物件が見つからないときのほうが怖かった。いつまでこの状態が続くのかという不安が常にあった。

その物件の間取りを改めて確認すると、東に二車線の市道があり日当たり良好な玄関が東向き、南側は人が通れるだけの細い径、隣家は畑を挟んでだいぶ離れていた。西に畑があり、南側の細い径には家が建ちそうにない立地だった。北側には前所有者の事業で使っていた大きな縦長の倉庫があり、その隣が民家だった。

借家へ引っ越して一年が経とうとしていた春の頃、朝、目が覚めると複数人の気配がした。


恐る恐る扉をほんの少し開けて様子を覗くと——。
あの朝、何が起きていたのか。

この続きには、あの日の朝に何が起きていたのかを、今も残る記憶をたどりながら綴っています。

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