ちょっと、ちょっと待って
「それでは失礼しました」
と電話を切ろうとしたところ、耳から離した受話器から声が聞こえた。
「ちょっと、ちょっと待って」
切らずに返事をすると、理由を聞かれた。
話していると、以前は代行もやっていたけれど、落札後に買わなかったお客さんがいて苦い思いをしたことがあると伝えられ、こちらの事情を話してほしいと言われた。
とっさに詳しく説明できず、一旦電話を切った。それから母と一緒に内容を紙に書いてFAXを送ってみると、一度お越しくださいと言われた。日時を決め、母が一人で訪問することになった。
だいぶご高齢のおじいさんの車に乗せてもらい、競売に出されている物件を現地まで連れて行ってもらえた。
外から眺めながら一通り見て車に乗り、そこから同じ道を東へ数分走った。
両サイドを山に囲まれ、畑や田んぼが広がるのどかな田舎道だった。
先ほどの競売物件よりさらに静かな場所で、到着したのはなんと大きな屋敷と広い敷地だった。
立派な屋敷
おじいさんは家の外から窓越しに覗くように見ていたという。
母が帰宅し、持ち帰ってきた用紙を見て、すぐには頭に入ってこなかった。
競売物件がどう進んだのかと期待していたから、まさか別の物件を紹介されているとは思いもしなかった。
不動産屋さんの情報には出ていない掘り出し物のようで、胸が躍った。
この物件の他にも、高齢の女性が所有して売却を依頼しているという物件も同時に紹介してくれた。
他県で暮らしている地主さんが空き家としてこの不動産屋さんに任せていたようで、大きな土地に立派な屋敷だと母は興奮していた。
間取り図と希望価格が記された用紙を母が持ち帰ってきた。
敷地面積は二〇〇坪ほど、玄関前には大木が生い茂る八〇坪ほどの庭があり、南側に道路、裏は民家と山が広がっていた。
乗用車が縦に三台分並べられるほどの距離に砂利が敷き詰められた敷地を通って玄関前まで車で入れる造りだった。図面には希望価格が五百万円と記されていた。
すぐに地主さんから電話が入り、母が対応し、関東に住まわれているご高齢の方で、地元にたくさんの土地を所有されているという。
家族構成など一通り話し合い、数回の電話でのやり取りが続いた。
なかなか話が進まなかったが、数日して母が再度おじいさんのところへ出向くと、驚いたことに
500万円が250万円に
五百万円だった金額がいつの間にか二百五十万円に値下げされていた。
築年数は古く、図面にはキッチンとお風呂場の床が抜けていると記されていた。
それでもおじいさんは窓越しに家の中を覗いて、
「うんうん、まだ住める、大丈夫」
などと呟いていたという。
しばらくして、近々地主さんが現地へ直接来るというので会う約束になった。
内見ができることと、本格的に話が進むかもしれないと期待に胸が膨らんだ。
どんなに古くても構わないとなりふり構わず探していた私たちにとって、紹介してもらったお家は立派だった。
母は興奮気味に喜んでいた。私も間取りを見て大きさに驚いた。
立派な四枚建引戸の玄関。
玄関前には灯籠があり、庭というより大木が茂って森と化しているほどの広い敷地だった。
会う日を確認しようと再度連絡すると、地主さんから思いがけない返事が届いた。
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