【空き家をめぐる記録 #22】Episode8|もう既に終わっています

03-空き家をめぐる記録

恐る恐る裁判所の競売係に問い合わせてみると

 母は落ち着いていられないと、久しぶりにおじいさんのいる不動産屋さんを訪ねた。

 以前に紹介してもらったもう一件、バス停があり生活には便利な物件はその後売却されたと聞いた。無理だと思っていたけれど微かな期待もあったから、売れてしまっていたことに少しショックだった。

 あの大きな屋敷はのちに取り壊されたと、おじいさんが母に不満を吐露した。おじいさんに言わず違う不動産屋さんに頼んだらしく、とても憤慨されていた。けれどもその地域は、秋以降に土砂災害警戒区域として追加指定されていた。他の同地域の空き家を見ると、不動産の項目欄に明記されるようになっていた。

 更地になったあの敷地は、果たして売れるのだろうか。

 後にGoogleマップで見てみると、紹介してもらった大きな屋敷も隣家だった大きな屋敷も、どちらも取り壊されていた。八十坪ほどの庭木の大木だけがそびえ立ち、家がないと全く雰囲気が一変していた。

 待つように言われていた競売物件の次の公告日が来た。期待に胸を膨らませながらインターネットで探すと、それらしき物件情報が見当たらない。(どうして)一気に不安になり、恐る恐る裁判所の競売係に問い合わせてみると——

もう既に終わっています

 「ご親族の方ですか」

 と聞かれた。

 「いえ、入札を希望している者ですが」

 と事情を説明すると、事件番号を伝えて調べてくれた。返ってきた言葉は思いがけないものだった。

 「もう既に終わっています」

 (ええ)この時は競売のことをよく知らなかった。私が見たときは三回目の公告だった。あの市役所の「次まで待って」とは、いったい何だったのか。

 後から調べてわかったことだが、三回も不買になるような物件はプロでも手を引くほどの問題を抱えているとされているらしい。「特別売却も含め三回目で売れない物件はゴミ」とまで言われていることも目にした。このときはそのような情報まで見ておらず、安い物件だと個人が落札した結果も見ていたから、怖い印象を持っていなかった。

 驚いて慌てて市役所に電話で問い合わせると、担当者が、

 「終わっていましたね」

 と、今日知りました、とでも言うかのようなあっけらかんとした口調だった。こちらの焦りとの温度差に押されながら、理由を聞く間もなく矢継ぎ早に、

 「司法書士の先生に」

 「はい」

 と相変わらず軽快な口調に圧倒されながら、破産管財人に選任されていた司法書士の名前と連絡先を聞いた。さっそく電話をかけてみると、あの上機嫌な市役所の担当者とは打って変わって、冴えない対応だった。

 事情を説明しても明快な返答がなかったけれど、予約を取って父と母が出向いた。

いらない、いらない

 司法書士の方の話によると、前所有者は自宅と作業場のほかに南側の細い径を跨った畑も所有していたという。

 母から聞いた内容では、作業場の話になると父が「いらない、いらない」と言っていたらしく、相手がどうしたいのかを慎重に聞くだけにすれば良かったのにと思った。

 さらに、

 ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

 この先は交渉の記録の続きと、ひとつの出来事を、実話と小説のふたつの語り口で。読み比べの試みは続けてきましたが、掌編小説としては初めてになります。

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【空き家をめぐる記録 #22】いらない、いらない|Episode8-3|琇夏
いらない、いらない  予約を取って父と母が出向いた。  司法書士の方の話によると、前所有者は自宅と作業場のほかに南側の細い径を跨った畑も所有していたという。  母から聞いた内容では、作業場の話になると父が「いらない、いらない」と言っていたら…

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