【空き家をめぐる記録 #23】Episode9|どうしても買ってもらえないのか

03-空き家をめぐる記録

ぽつんとある古民家

 予算や望む広さの物件がなかなか見つからない中、空き家バンクで百万円と表記された物件に目が留まった。

 隣県のかなり人里離れた場所に、山と田んぼに囲まれてぽつんとある古民家だった。険しく登る山ではなく扇状地で、祖父母の家のほうがはるかに山奥だった。

 早速市役所に問い合わせると、まず空き家バンクへの登録が必要だと伝えられた。

 遠く離れた場所のため書類を郵送してもらい、登録を無事済ませるとすぐに問い合わせてくれた。登録してすぐに連絡が入ったことに相手方は驚いていたようで、家屋がまだ未登記のままだという。

 そのときは詳しくわからず、すぐにでも契約したい気持ちでいた。相手方のご夫婦はとても人柄が良く、丁寧で真剣に接してくれた。

 内見の前に、父と母が現地を外から眺めに行っていた。窓越しに時が止まったようなブラウン管のテレビなど、懐かしさを感じる雰囲気だったと言っていた。

 内見の日取りを待っていたが、なかなか連絡が入らず思い切って電話を入れてみた。すると出てきた声がいきなり、

空っぽになった家

 「○○さん」

 と途切れなく話し始め、遮ることができなかった。別の方と間違えているようだった。どうしようかと思っていると、向こうが気づいたのか気まずくなりかけたところを、咄嗟にこちらが話に合わせながら上手く会話を繋げた。間違いはそのまま流れ、状況を教えてもらい再度日時を決めてもらうことになった。

 きっと他にも申し込みがあったのかと先を越されないか余計な心配が募った。

 内見当日、予想とは異なる光景が待っていた。部屋には古びた家具どころか、襖や畳、扉まで全て処分されていた。

 空っぽになった家の中は床がところどころ抜け落ち、戸も傷んでいた。扉や障子戸は欲しかったなと思ったけれど仕方がない。山や田んぼも残されていて、できれば見てほしいと伝えられていた。山まで付いてくるとは魅力的だった。手入れはとても無理そうだけれど、協力し合える家族がいれば飛び上がるほど楽しそうだと思った。山に囲まれ人目を気にせず暮らせるのも良かった。

 秋の頃、年内には売買を済ませて引っ越したいと思っていた。空き家バンクには仲介方法が詳しく載っておらず、なかなか契約の話が進まないままやきもきしていた。

 思いきって思い切って仲介方法を聞くと

どうしても買ってもらえないのか

 「不動産屋さんを探しているので待ってほしい」

と言われた。

その後、紹介された不動産屋さんを訪ねたが予約扱いのまま帰ることになった。物件や町内会のことまで再三聞かれ、契約する気があるのかと徐々に不安になってきた。登記の作成に日数がかかり年を跨いでしまうとのことで、予約した不動産屋さんにお断りを入れた。

 するとその後、奥様から電話が入った。奥様からは初めてだった。

 「どうしても買ってもらえないのか」

 と懇願され驚いた。不動産屋さんを通じて契約できたと思い込んで安心していたようで、契約ではなかったことを伝えると非常に驚かれていた。

関東の方からも購入の話があったが上手くいかなかったと教えていただいた。お人柄は申し分なく、お互いに知らないことが多くて残念な結果になってしまった。

あのころの私たち家族は、年内には越せるかもしれないと気が急いていた。今になって思えば、あの焦りの底には、信じたい気持ちと裏腹の、ごく小さな疑いがあったのかもしれない。けれど私は、温かく接してくれた売主さんを疑いたくなくて、その気持ちにそっと蓋をしていた。

のちに気になって調べてみると、あれからすぐに売却されており、無事に買い手がいてくれたことに安堵した。

登記を見ると、買い手の方は住宅が密集した窮屈な地域にお住まいの方だった。きっと山に囲まれた静かな暮らしを求めていたのだろう。

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