【空き家をめぐる記録 #24】Episode10|わかりにくいものには嘘が潜んでいる

03-空き家をめぐる記録

塩を用意しておいてほしい

 その年の暮れ、百六十万円で売りに出されている家があった。地元では有名な、インターネットでも多くのキャンペーンを打ち出している大きな不動産屋さんだった。年が明けた月末に内見の予約が取れた。

 内見当日、父と母は物件へ出向いた。その日はたまたま競売物件の公告日と重なっていて、気持ちは内見する物件に向いていた。玄関前の道路は広く日当たり良好で、裏は田んぼが広がり四角い土地の形だった。所有者も遠い場所に住んでいるようで気兼ねがなさそうだった。

 父と母が内見に行っている間、競売物件も確認してみると、同じ方角の地域に一件の物件が掲載されていた。興味本位で三点セットを見てみたけれど、これまでのように真剣に見る気分になれなかった。トイレが汲み取り式だと分かり、あっさり諦めた。頭の中は内見しに行っている物件のことばかりだった。

 電話が鳴った。父の携帯からだったが、出てみると母の声だった。

 「家に着くまでに塩を用意しておいてほしい」

それではトラブルになります

 全く見当がつかなかった。帰宅してチャイムが鳴り、玄関先で母が家に入らず待っていた。塩を渡すと体に振りかけ、父にも渡してからリビングに向かった。(どうなった、どうなった)気がはやる。

 母は体をさすりながら話してくれた。内見中にものすごい鳥肌が立ち、気持ち悪さと不動産屋さんの対応への不信感で落胆したという。

 仏壇の中身が放置され、位牌がそのまま置かれていたと聞いてぎょっとした。登記を調べたときは、名義変更もされずに亡き前の持ち主のまま放置されている物件という印象だったけれど、まさかそこまでとは思っていなかった。

 不動産屋さんの書類の内容があまりにも酷かった。初めから買わせる気がなかったとしか思えないやり方に憤りを感じた。事前に母に「内金は絶対に払わずに帰ってきて」と話しておいて本当に良かった。

 実は予約した時点で、買う意思があることを受付の方に詳しく話していた。それがいけなかったのか、後日担当者から電話があり、予約時には言われていなかった「先客がいる」という話が出てきた。なぜ最初に言わなかったのかと思いつつ、こちらも余計なことを言ってしまい、

 「それではトラブルになります」

 とムッとした物言いをされた。こちらが謝らざるを得ない状況になり、慎重になっていた。

二倍に膨れ上がっていた

 案の定、作成された書類はホームページの内容と全く違い「土地家屋付き物件」と表記されていた。

 確かめてみると、れっきとした物件として掲載されているのに内容が違う。しかもサイトには載っていない項目が加えられ、売却金額が表記の二倍に膨れ上がっていた。最初からその金額なら内見どころか予約すら入れなかった。

 キッチンの屋根は朽ち落ちてシンクが剥き出しの状態だったけれど、手持ちの金額で購入できるなら住みながら直していけると思っていた。父も直すことへの意欲があり、内見時には必ず住んだ後のことを考えて写真を撮っていた。

 微小な字で「返金できません」と記されていたことも、後から気づいた。

 そして後から調べてわかったことだが、ホームページでは物件として掲載しておきながら、書類では土地として扱うことで、建物の欠陥についての責任を限定しようとしていた可能性があった。

 通常の中古住宅として売り出されていれば、説明されていなかった欠陥があった場合に修繕や代金の減額を請求できる。しかし土地として扱えば建物は「おまけ」となり、その責任を負わずに済む。ちょうどこの頃、民法改正によって売主の責任がより強化されたばかりだった。

 当時はそのことを知らなかったけれど、なんとなく不審に感じていたのは間違いではなかった。

 そして契約前に「返金できません」と記されていたことも、内金を受け取ってしまえば返さないという意味だったのだろう。法的には無効になり得る条件だったとしても、その場で気づくのは難しかった。事前に母に内金を払わずに帰るよう伝えておいて、本当に良かった。

 わかりにくいものには嘘が潜んでいる、と正にそのような対応だった。

 

 後日、受付の方に丁重にお断りを入れた。

空き家をめぐる記録は、ここで一区切りとなります。
いくつもの家と、いくつものご縁がありました。
そのどれもが、わが家にはならなかった家たちです。
次の記録へ続きます。

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